4つ、ケーキを用意してくれる?
私が大晦日の前日に、母にお願いしたこと。
母はきちんと用意してくれた。
大きないちごののったショートケーキと、クリームたっぷりのシュークリームと、タルト生地がザクザクなフルーツタルトと、唯一のチョコレート味、チョコレートケーキ。
仕事があったので用途は告げず母に頼んだのだった。
生クリームが食べたくて仕方ないといった彼と出かける道中、食べられたらサイコーなので。どうか。生クリームののったケーキを。どのケーキとかは絞れないから4つも買ってしまいたい。
無我夢中の私の話、何も聞かずに協力してくれる母。
世界一愛している。
実家に到着。
お金は多めに支払い、お礼として欲しがっていた片手鍋をプレゼント。
集まっていた家族にまだ見ぬ新年の挨拶。
息つくまもなく実家をあとにする。
駅前、23:00。透き通る空気が心地よい時間。
彼が運転する水色の車に拾ってもらう。
大晦日の夜、二人とケーキをのせた車は静まり返るベッドタウンを抜けてゆく。
こんなふうに悪いことをしている気持ちになる楽しい行為は、大人になってからむしろ増えたように思う。
道中は、話す。とにかく話す。
まだまだ私は彼を知らないし、彼は私を知らない。今日食べた物、この前聞いた好きな映画について、学生時代の話。何でも良い。何でも知りたい。
夜のドライブはいつだって最高。
一人だって良いものだけど、好きな人とふたりで敢行する夜のドライブというのは、するりと世界から逃げおおせて、ついにふたりきりになった、みたいな感覚がある。と思う。
共犯の感覚。ドライブを始める前よりもかなり、近しい感じ。
玉ボケの連続に、夜を感じ、ロバート・デ・ニーロやウィノナ・ライダー、伊藤沙莉さんへおもいを馳せる。ドライブのシーンが多い映画が大好き。
馳せながら、この橋が好きとか、このトンネルは怖いとか。人がいないねとか、いま人がいたねとかぽつり、ぽつりと言葉をかわす。
そうこうするうちにかなり郊外まできた。
お、と彼が微かに歓声をあげる。
暗い夜道でぽつんとひかる、セブンイレブン。
宇宙で星を見つけたような気持ち。
ケーキあるから、コーヒーを買おう。
年越しだから、そばも買おうか。
最高だね。楽しいね。
もうあと8分で年越しだよ。
彼がコーヒーを淹れ、わたしはお湯を注いで。また連れ立って車にもどる。小さな動作や瞬間がいちいち美しい。やけに煌めいて見える。すべてがイベント。なんて幸福な時間なのだろう‥いとおしくて敵わない。
まだ日の出も拝む前から祈りはもうはじまっていた、こんなふうな、健やかで温かくて、きわめておだやかな気持ちでずっといられたなら。今年祈ることはこれだけ。
このあと彼は私の恋人になり、めでたく母に報告。おめでとうより先に「きをつけろ!焦らないで!」と予想外の激励。私もいい年なのである。どこもかしこも愛に包まれた、案外あんまり甘くない年明け。